うそつきアヤとカワウソのミャア
「大体さ、寝てる女の子の横にくっつくなんて犯罪だよ」
「どうして?」
「当たり前じゃん。人間の男だったら、即逮捕ね。痴漢だもん。このエロカワウソ!」
「口悪いなあ。ボクは人間でもないし、男でもないのに」
「んん?」

 たまに濁音が混じる声からは、年齢も性別も判断しづらかった。
 自分を“ボク”と呼ぶから、てっきり男の子だと思って話していたが、どうも違うらしい。

 痴漢ではない、それはまあ、譲歩して認めよう。
 しかし、いくら大目に見たところで、布団を同じくするのは無理筋だ。

 ベッドとは反対側、部屋の隅まで這っていく私を、ミャアが話を中断して見守る。
 いざという時のために、最終兵器は常備していた。
 机の下へ手を伸ばし、掴み出した缶をミャアに掲げて見せる。

「ぎゅっ、何それ!」
「駆除する。嫌なら出ていって」
「殺虫剤に見えるんだけど。虫用だよね? カワウソに使う道具じゃないよね?」
「Gに効くなら、大抵の害虫には効くはず」
「害虫!? やめようよ。やめてって。効くかもしれないから!」

 にじり寄る私へ、必死の懇願が続く。
 殺虫剤で魔物を駆除する話を、以前読んだことがあった。
 人は決して無力ではない。
 超常の力に抗うため、現代人が英知を集めて作り上げた破邪の毒霧。
 文明をナメないでよ。

「ナメてないから。ヤバいから。尻尾撫でていいから。話し合お?」
「闇へ還りなさい、エロ猫め!」
「ぎゅあっ、いろいろ間違ってるからぁ!」

 押し問答は、一時間近く繰り返された。
 甚だ不本意ながらお互いが歩み寄り、一応の合意点に到達する。
 決着は翌朝へ。

 渋々とは言え、ミャアが部屋に留まることを許したのは、再び強い睡魔が襲ってきたからだった。
 寝れば無かったことになるかもしれない作戦、とも言う。

 ああ、神様。
 カワウソの形をしてない神様。
 全ては疲れた私が見た夢幻(ゆめまぼろし)ですよね?
 いくらなんでも、こんなハチャメチャな出来事があってたまるもんですか。

 現実世界への復帰を願いながらも、私は謎の哺乳類に寝床を提供するハメになった。
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