私は森の支配人
ブラック企業に勤めて約4年がたった。その長い時の中で、もちろん一時は辞めようと試みた事もあった。


だが他に就職し直す体力も気力も、何も残っていなかった。


削られた自尊心は、ニートになる事を許してくれる筈もなく、感情を殺して生活するばかりの毎日だった。





───────「神崎!!貴様またか!まだこんな少しの仕事も終わらんのか!!お前は本当に愚図だな!」


「………申し訳ありません」


肩を掴まれ、唾を撒き散らしながら怒鳴られるのはいつもの事。それよりも────


【こんな少しの仕事】


………そうか。他の人にとっては、これは【こんな少し】なのか。ははっ、そうか。私が徹夜をしようと、一般の人の足元にも及ばないのか。





────「てかお前、もう死ねよ。居る意味ないし、邪魔なだけじゃねぇか。どうせ毎日必死に考えてるんだろ?『私が居る意味ってなんなんだろう……?』とかな。どうして答えが出ないか教えてやろうか?



───────お前が生きる意味なんて、これっぽっちもないからだよ」







───────世界が一瞬、真っ白になった。


あぁ、明るい。私、死んでもいいんだ………。やっと、許してくれるんだ……。




「──分かりました。では」


「はっ?お、おい。貴様どこへ行く!休憩なんて許しとらんぞ!おい!貴様!私の言うことが聞けないのか!おい!おい!戻れって……『貴方の言うことを、実行しに行くんですよ』


───────あぁ………とても幸せ。きっと私今、極上の笑みで笑ってる。










─────「ねぇ、【地図にない森】って、知ってるでしょ」



「お、お客さん。そこに行こうってのか?やめとけよ。あそこに行って無事に帰ってきたやつなんて居ないんだからさ」


「…………無事に帰ってくる必要はない。だから貴方が私を心配する必要もない。さあ、さっさと車を出して」


「っ!嫌だね。俺は自分の命も大事なんだ!」


「…………森の入り口まででいい。これも貴方にあげるよ。────中には百万入ってる」


「………………チッ……分かった」


─────ふふ、明らかに目が変わったな。やはり人間はこんなもんなのか。


長年あんな場所で働いていたせいか、人の感情、裏に隠された妬みや敵意、陰謀が、目を見たら分かるようになってしまった。


この男に現れたのは、【欲望】のそれだ。恐怖にさえ勝つことのあるこの感情は、誰もが秘めているもの。そう考えると、この世界は酷く恐ろしい所だ。





─────────「はぁ。着きましたよ。約束のこれ、貰っていきます。さっさと降りてください。こんな薄気味悪い所、早く離れたい」




「……えぇ。では」





──────へー。確かに薄気味悪いところね。


──うん。確かにGPSは起動してない。皆が知っているのに登録されていないなんて…………不思議な事もあるんだなぁ。


─────まあだからこそ、ここを選んだんだけど





< 1 / 4 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop