ズルくてもいいから抱きしめて。
足の骨折がどう伝わってしまったのか、姫乃が予定よりも早くこちらにやって来て、今まさに俺の前で泣いている。

どうやら俺の考えが浅はかだったらしい。

心配を掛けまいと連絡を怠ったことで、余計な心配を掛けてしまったらしい。

部長から姫乃に伝わることは、少し考えれば分かることだった。

俺は自分のことばかり考えていて、姫乃がどう思うかまで考えていなかった。

俺がしなければならないことは、“心配を掛けない”ではなく“安心させる”ことだったんだ。

そう気付いた瞬間、俺から出た言葉は“家族になろうか!”だった。

何度も何度も考えた格好付けたプロポーズの言葉ではなく、今この瞬間の俺の本心だった。

そして、姫乃も俺と同じ気持ちでいてくれた。

同時とはいえ、まさか姫乃からもプロポーズされるとは思わなかった。

以前の姫乃は、過去の恋愛で自信を失い、付き合っていても俺に対してどこか引け目を感じていた。

先輩だから、上司だから、と結婚までは意識してくれなかったと思う。

そんな彼女も少しずつ自信を付け、仕事でもプライベートでも俺の隣を歩いてくれる。

“家族になりたい!”とはっきりと自分の気持ちを伝えてくれた。

守るんじゃない。

これからは、2人並んで未来を歩いて行くんだ。

【完】
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