ズルくてもいいから抱きしめて。
帰宅後、俺はしばらく姫乃を抱きしめていた。

「樹さん?、、、えっと、、、どうしたの?」

何も言わない、キスもしない俺に、姫乃は少し困惑していた。

「いいから、、、今は黙って抱きしめさせろ。」

自分の不甲斐なさと嫉妬心で、俺の頭の中はグチャグチャになっていた。

いつもの俺なら、グチャグチャの頭のまま姫乃を抱いていたと思う。

でも、それだとダメなんだよな、、、

笹山さんは“未練はない”と言ってはいたが、今でも姫乃のことを大切に想っていることが伝わってきた。

俺が中途半端なことをすれば、いつでも姫乃を奪い返しに来る。

姫乃が笹山さんの前で泣いてしまったのは、俺にも責任がある。

それでも、元カレの前で弱ったところを見せて欲しくはなかった。

俺がどれだけ姫乃を想っているか、俺の心の中がそのまま姫乃にも伝われば良いのに、、、

「俺、、、お前のこと大切にしてやれてるか?」

俺は力無くボソッと呟いた。

姫乃は俺の頬を両手で包み込み、しっかりと俺の目を見て答えた。

「すごく愛してくれてる。ちゃんと伝わってるよ。」

そう言って姫乃は、俺に優しくキスをした。

恥ずかしがり屋の姫乃ができる精一杯のキス。

自分からしてきておいて、照れて真っ赤になっている顔は妙にクるものがあった。

今日は理性を保って優しくしてやれる自信ないのにな、、、
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