ズルくてもいいから抱きしめて。
未来に繋がる貴方との恋。

姫乃の場合

今日は、樹さんが私の実家に挨拶に来てくれている。

同棲する前に親へ紹介するつもりではいたが、お互いのタイミングが合わず、とりあえず電話で済ませたのだった。

「改めまして、天城樹です。本来なら娘さんと一緒に暮らす前に御挨拶に伺うべきですが、今頃になってしまい申し訳ありませんでした。」

樹さんは両親に深々と頭を下げた。

「もう!そんな堅苦しい挨拶なんて良いの!姫乃から“仕事ができて、頼れる素敵な上司がいる”って聞いてたから、その人とお付き合いしてるって聞いてむしろ安心してしてたんですよ。ねぇ、パパ?」

「うん、そうだね。」

母には以前から“上司”である樹さんの話はしていて、その人が“恋人”になってとても喜んでくれていた。

父の表情からも、両親が樹さんを認めてくれているのだと伝わってきた。

私が両親に恋人を紹介する日が来るなんて、少し前までは想像すらできなかった。

慎二がいなくなってからは、新たに恋愛をする気にもなれず、また誰かを好きになれるとも思っていなかった。

そんな私が、今日こうして両親に樹さんを紹介している。

後ろ向きだった頃の私に教えてあげたいくらい、今とても幸せに感じられる。



「御両親、優しい人で安心したよ。電話で話した時もそうだけど、姫乃をちゃんと信用してくれてるんだな。」

「うん、そうかも。私のすること、選んだことを反対されたことはないかな。見守ってくれてるのが分かるから、私も安心して何でも挑戦しようと思えたし。私もいつか子供ができたら、両親みたいな親になりたいな、、、。」

「うん。姫乃なら、優しくて良いお母さんになるだろうな、、、。俺、子供は多くて賑やかな方が良いからさ、姫乃ちゃん頑張ってな。」

樹さんはそう言うと、いつものようにニヤッと悪戯に笑った。

樹さんとの幸せな未来を想像し、家に着くまで手を繋いで歩いた。
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