ズルくてもいいから抱きしめて。
「怒ったり泣いたり忙しいやつだな〜」

そう言いながら、天城さんはあの日のように私のことを抱きしめた。

「悩ませて悪かったよ。お前が恋愛に臆病なのは何となく気付いてたし、本当はもう少し気長に待つつもりだった。でも、あの日お前が泣いてるの見たら何かもう止められなかった。お前の心の傷ごと全部俺が引き受けるから、俺と前に進んでみないか?」

天城さん、私のことを本気で想ってくれてるんだ。

天城さんは大切な信頼できる上司だし、いい加減な気持ちでは付き合えない。
もしダメになったら、今までのような関係ではいられなくなってしまう。

それに、また傷付くことになったら?
怖い、、、

そんなことをグルグルと考えてしまって、天城さんの気持ちにどう答えを出せば良いのか分からなくなった。

「お前、またココにしわ寄せて難しい顔してる。」

天城さんはフッと笑うと、私の眉間を指でトントンと触れた。

「そんなに難しく考えるなよ。この一週間のお前の反応を見ると、ちょっとは期待しても良いってことだよな?」

天城さんはまたニヤッと笑った。

「何も言わずにわざと私の反応を見てたなんて、天城さんズルいです。」

「ズルくて結構!俺だって振られて傷付くのが怖いんだよ。俺もお前と一緒だよ。」

そう言った天城さんの表情はとても優しくて、天城さんとなら前に進める気がした。
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