ズルくてもいいから抱きしめて。
「前川!お前いい加減にしろよ!」

部署の入口で、突然樹さんの怒鳴り声が聞こえた。

そして真っ直ぐ私の方へ駆け寄ると、前川さんから私を隠すように目の前に立ってくれた。

「あれ〜ヒーローのご登場ですか?もしかして、天城さんも既に神崎さんの色仕掛けにやられた一人ですか?」

「あぁ、俺は姫乃を愛してるよ。でも、色仕掛けなんて使われたことはないし、俺はこいつの仕事に対する直向きさに惚れたんだ。」

「えっ、神崎さんの彼氏って天城さんだったんですか?」

「あぁ、俺たち付き合ってるよ。近いうちに結婚するつもりで既に一緒に住んでる。」

「えっ、、、結婚!?同棲!?」

迷うことなく真っ直ぐに答える天城さんに、前川さんはかなり動揺しているようだった。

そして、そのやりとりを聞いていた同僚たちも、前川さんと同様にかなり衝撃を受けていた。

「俺は姫乃が入社してきた時からこいつの仕事をそばで見てきた。みんなも一緒に仕事をしてきて、姫乃がいい加減な仕事をしていると感じたことがあるか?噂通りの人間だったか?」

樹さんは、前川さんだけでなく、噂を鵜呑みにしていた同僚たちにも訴え掛けてくれた。

「だっ、だからって、神崎さんが女を使ってないっていう証拠にはなりませんよ。むしろ、天城さんも付き合ってるってことはヤラれてるじゃないですか〜」

前川さんの言う通り、私の噂が間違っているという証拠はない。

もう無理かもしれない。

これ以上は樹さんに迷惑が掛かってしまう。

私は隠れていた背後から、樹さんの裾をツンツンと引っ張った。

「樹さん、、、もういいです。」

樹さんは振り返ると、私の頭をクシャッと撫で、いつものようにニヤッと笑った。
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