ズルくてもいいから抱きしめて。
樹さんが呼び掛けた方を見てみると、そこには“shin”こと慎二の姿があった。

えっ、どうして慎二が、、、?

私は驚いて樹さんを見ると、樹さんは私を安心させるように“うん”と頷く仕草を見せた。

“えっ、今“shin”って言ってたよね?”

“あの人が本物の“shin”なの?”

今まで顔を出したことが無かった“shin”が目の前に現れたことで、同僚たちはかなり驚いているようだった。

「神崎さんのことで悪い噂が広まっていると聞きまして、自分にも関係がある事なので直接お話をさせて貰いに伺いました。」

慎二は前川さんの前まで車椅子を移動させると、穏やかな口調で話し始めた。

話し方はすごく穏やかなのに、目が全然笑ってない。

張り詰めた空気を感じ取ったようで、前川さんがゴクッと息を呑むのがわかった。

「神崎さんは確かに可愛らしくて魅力的な女性です。でも、それとこれとは別です。彼女の熱意に感動してこの仕事を引き受けました。男女の関係にはなっていないし、これからもそうなる事はありません。それに、御覧の通り私は車椅子です。仕事を餌にするような軽い気持ちで女性に手を出すことはできません。でも、、、信じて頂けないのなら、出版のお話は無かったことにしないといけないですかね。」

「えっ、、、いや、、、あの、、、すみませんでした。」

慎二の脅しとも取れる言い回しに観念したようで、前川さんは完全に戦意が喪失したようだった。

「よしっ!誤解が解けたようだから、後は上司である俺が引き取ります!」

前川さんの直属の上司である中村さんは、そのまま前川さんを連れて去って行った。

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