ズルくてもいいから抱きしめて。
「慎二、今回は会社のことに巻き込んでごめんなさい。それから、来てくれて本当に助かりました。ありがとう。でも、、、どうして?」

前川さんとの騒動の後、私は慎二に謝罪と感謝を伝えた。

慎二は、車椅子であることで変な注目のされ方をするのを嫌がっていた。

そのため、社内でも“shin”の素性を知っている社員は数名だけなのに、今日はわざわざ大勢の社員の前に出てきてくれた。

「天城さんが、“姫乃を助けて欲しい”って頭下げに来てくれたんだよ。」

「えっ、樹さんが!?」

「上司であり恋人である自分が矢面に立ったところで、余計にヒートアップするだけだから、作家本人に出て来てもらう必要がある。会社全体で力を入れてる俺なら、尚のこと相手をねじ伏せることができるからって。」

「樹さんが慎二のところに行ってくれてたなんて、私知らなかった。」

「あの人、本当に凄いよね。男としてのプライドより、惚れた女を助けるために元カレの俺に頭を下げに来るんだから。あそこまでされて、俺が何もしないわけにはいかないよ。」

慎二の話を聞いて、私は樹さんへの愛おしい気持ちで胸がいっぱいになった。

樹さんはやっぱりズルいな。

私に言わないで、そんなことまでしてくれてたなんて、、、

「姫乃、、、天城さんのところに行っておいで。」

「慎二、、、うん。本当にありがとう。」

慎二をロビーまで見送ると、私は急いで部署のあるフロアに戻ってきた。

樹さんに早く会いたい。

樹さんに感謝を伝えたい。

はやる気持ちを抑えながら自分の部署へと急いでいると、カフェスペースにいる樹さんの姿が目に入ってきた。

その瞬間、先ほどまで抑えていた気持ちが溢れてきて、ここが会社であることも忘れて私は樹さんの胸に飛び込んでいた。

「えっ!?姫乃!?おぉ、、、あっぶね〜コーヒー溢れるって、、、」

樹さんはかなり驚いていたけれど、私の様子で察してくれたのか優しく包み込んでくれた。

「姫乃さん、ここ会社ですよ。」

樹さんは窘めるようなことを言いつつ、その表情はとても優しかった。

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