ズルくてもいいから抱きしめて。
先日までの社内の空気の悪さが一変し、みんな何事も無かったかのように過ごしている。

あのタイミングで樹さんとの交際をオープンにしたけれど、何事もなく平穏に過ごせている。

樹さんは社内でもファンが多いから、多少の噂や嫌がらせは覚悟していたけれど、その心配は杞憂に終わった。

なんだか肩透かしを食らったような気分だった。

今まであんなに悩んでいたのに、、、

何はともあれ、余計なことを考えず仕事に集中できるようになったのは嬉しい限り。

騒動の原因となった前川さんは、“反省させるために、しばらくの間は地方で研修させる”と上司である中村さんから聞いた。

“処罰が軽過ぎる!”と樹さんは怒っていたけれど、平穏に仕事ができるように戻ったのでそれで良しとした。

「姫乃、お待たせ!帰ろうか。」

「うん!」

交際をオープンにして良かったことは、こうして堂々と一緒に帰れるようになったこと。

「2人ともお疲れさま〜」

「あっ、お疲れ様です。」

「おつかれ〜」

樹さんと一緒にいても、同僚たちは普通に挨拶をしてくれた。

「何で今まで隠してたんだろう?ってぐらい、受け入れられてるね。」

「だから言っただろ?俺は最初から隠すつもり無かったよ。」

「そうだね、、、。私が勝手に怖がってただけだね。」

「まぁ、1番の理由は俺の態度が“分かりやす過ぎたから”らしいけど、、、」

「それってどういう、、、?」

「俺の姫乃への態度を見て、みんな大体の予想はしていたらしい。」

「そうだったんだ。特に変わったように感じなかったけど。」

「それは姫乃が鈍感だからだろ。あぁ〜俺ダッサイよな。いい大人が気持ちダダ漏れなんて、、、」

樹さんは少し気不味そうに言った。

なんか今日は樹さんが可愛い。

「私は嬉しいよ。ダダ漏れしちゃうぐらい想われて幸せだよ。」

そう言って、私は樹さんの手に自分の指を絡めた。

「そんな可愛いこと言っちゃって良いのかな?」

樹さんは指を絡めた手を持ち上げ、私の手の甲にそっと口付けをした。

そして、いつものようにニヤッと悪戯に笑ってみせた。
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