ズルくてもいいから抱きしめて。
しばらく経って、樹さんが出張へ行った。

出発する直前まで、私の心配をしてくれていた。

“一人なんだから、必ず戸締まりの確認をすること。それから、忙しくてもご飯はちゃんと食えよ。”

樹さんは本当に心配性なんだから、、、。

今思い出しただけでも、クスッと笑ってしまう程だった。

樹さんを安心させてあげるためにも、向こうに合流するまでの間、仕事でも家でも留守をしっかり守らなければならない。

“よしっ!”と自分に気合を入れ、私は目の前の仕事に集中した。



いつものように仕事を終えて帰宅すると、私を出迎えたのは誰も居ない真っ暗な部屋だった。

樹さんが出張で無くても、樹さんの方が残業で遅くなることはよくある事だ。

それなのに今日は、誰も居ないこの部屋がとても寂しく感じられた。

私はいつからこんなにも寂しがり屋になったのだろう?

同棲を始める前はこんなこと当たり前で、“寂しい”なんて思わなかったのにな。

それだけ、私の中で樹さんの存在が大きくなっていたことを実感した。

「さて、樹さんにも釘を刺されたし、晩御飯作って食べますか!」

私は寂しさを紛らわせるために、わざと大きな独り言を言って気分を変えた。
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