夫婦未満ですが、子作りすることになりました
そばにあるガラスのパーティションに微かにふたりが映りこんでいる。私はそれをじっと見つめた。女性は高そうな白のワンピースを着ていて、お金持ちのお嬢さまの装い。私よりも年下に見える。対して零士さんはラフな私服だ。
「零士さん。お部屋に入れてくれたっていいじゃないですか。それか場所を変えるとか。ロビーで話を済まそうなんて失礼では?」
相手の女性の強気な声。敬語だ。恋人ではなさそう……なら、どういう関係?
「俺には婚約者がいる。誤解を招くからきみとふたりで食事には行けないし、もちろん部屋にも入れられない」
零士さんだ。婚約者って、私のことなのかな?
「婚約者がいるなんて今まで聞いたことがありません! 零士さんは私と結婚するはずだったでしょう!」
「若葉。きみとはあくまで両親の間で政略結婚の話が持ち上がっていただけだ。俺の預かり知らぬところで進んだ話であって、承諾すらしていない。婚約者がいると今回正式に断り、きみのお父上は納得したはずだが?」
「私は納得していません!」
女性は若葉さんというらしい。相当怒っているようで、バンとテーブルを叩いて立ち上がっている。