シニアトポスト
私は私。莉乃は莉乃。
───やっとそう思えるようになったのに、どうして。
「莉央、私…彼氏できちゃった!」
神さまはいなかった。
いや、私が神様に選ばれなかっただけなのかもしれない。けれど、この世はあまりにも不公平で残酷で、───私は、報われない。
こんなことになるのなら、莉乃に私の好きな人が誰なのか言っておけばよかった。
そう思いながらも、(言ったところで最後に選ばれるのはどうせ莉乃なら関係ないか)と捻くれ、言葉を呑み込んだ。
あの時もそうだった。小学生の頃のコンクールの時も、私のとっての朗報は、莉乃にとっては普通だった。
───彼氏ができた、
嬉しそうに私にそう伝える彼女に、私はなんて返したんだっけ。
私は莉乃の彼氏のことが好きだったんだよ。
莉乃が応援すると言ってくれていた私の恋は、莉乃の幸せと紙一重だったんだ。
莉乃が幸せなら私は不幸。その逆も然りだけれど───そんな状況があったことは、過去に一度もない。
あの時の記憶は私の中の奥底にしまって固い蓋をした。うまく思いだすことができないのは、その記憶を私自身が拒絶しているからだと思う。
ただそこに、私が今まで感じたことのない黒い感情が沸いていたことだけは明確だった。
私は、自分の中の辞書から“期待”という言葉を消した。
この世は不公平。神さまはいない。
期待して裏切られるくらいなら最初から期待をしないようにしようと、その日の私は決めたのだった。