シニアトポスト
カラン…と音を立てて古くなった重い扉を開けると、珈琲の大人の香りが鼻を抜けた。カウンターからこの店のマスターが顔を覗かせ、「いらっしゃい」と柔らかい笑みを向けられた。
落ち着いた声だった。
店内に他にお客さんの姿が見られない。
中途半端な時間帯だ。夕飯にするには早いけれど、おやつにしては少し遅い。そんな夕方に、特別目立つところにあるわけではないこの喫茶店がノーゲストであっても、別に何も不自然なことではなかった。
常連しか来ないような、そんな雰囲気が漂っている。
マスターの目の前のカウンターに座り、「珈琲ひとつください」と注文する。
ふう…と息を吐き、何気なく入口の窓から時々見える外を歩く人たちに目を向けた。
私は、こんな私を受け入れてくれる人すら大事に出来ないまま逃げて来てしまった。外を歩く人達はきっと、悩みを抱えながらも自分なりに忙しない毎日を生きている。
私だけが、あの時の後悔からずっと逃げ続けたまま、楽で苦しい日々を過ごしているのかもしれないと思うと、どうにもできない後悔と恐怖に襲われた。
ああ、今日も苦しいなぁ、私の人生は。