最後の一夜が授けた奇跡
私からは律樹が見えても、律樹からは見えない。
律樹に声でもう何も悟られないように気をつけながら話す。
『季里。開けてほしい。頼む。』
「ごめんなさい。明日お話は会社で聞きます。」
こんな部下ダメだなと思いながらも、私はインターフォンを切ろうとする。
『何かあったことなんてわかってんだよ。季里、開けろ。じゃないと一晩中ここにいる。』

律樹がこうなったらもうきかないことなどわかっている。

でも扉を開けてしまったら・・・。

『季里』
急に優しい声で律樹が私を呼ぶ。
『開けてくれ』
切なすぎるその表情・・・。

私は震える手で、インターフォンの隣にある開錠のボタンを押した。
< 51 / 500 >

この作品をシェア

pagetop