紅一点
カランカラン…
静かになったはずの
ドアベルが鳴り、行灯看板を
抱えたオトコが姿を現した。
「淳之介、いつもの頼む。
あれ?まだ、お客?って…!!
ああああっ!!オマエ!!
さっきの!!」
指を指し絶叫するオトコに
「げっ?!さっきの
人身密売人!!」
こちらも、シャーッと全身の
逆毛を立てて、応戦に転ずる。
「人聞き悪ィんだよ!!
テメェー!!人んちのマネキン、
パクリやがって!!」
「うるさい!!金は
払っただろうが!!」
「何処のおもちゃの札だよ!?
このクソアマが!!」
…結果的に、マネキンは
パクッたが、わたし的には
一旦は、お金を払ったのだ。
…ナケナシの財産の内
…1,000円を…。
だけど、通貨が違うようで
捕まって、それで、ここが
日本じゃないって、
気づいたのだ。
「あら、重蔵。
行灯、さげてくれたの?
助かるわ。でも、今日は、
お楽しみの甘味は
余ってないのよ。
抹茶だけでもいいかしら?」
長い指で口元を
隠しながら、ホホホ…と
照れ笑いをするオネエ。
名を、淳之介というらしい。
…そんな淳之介を
驚愕の眼差しで見遣る
ブローカーを視界にとらえつつ、
まさしく私の食べかけの桜餅が
コヤツが楽しみにやって来た
甘味の余剰品と悟り、
その残り全てを
口に突っ込んだ。
…うん…
とても、美味しい。
本当は、甘いものは苦手だけど、
淳之介の提供する甘味は、
とても美味しい。
「あっ!?テメェ!?
それ!!俺の桜餅だろ!?
何食ってやがる!?」
わたしの両頬を、
片手でありながら
有らぬ力で押さえつける指に
断固として逆らい、
桜餅を飲み込んだ。