紅一点
 
SF的発想で言えば
きっとここは異次元だ。

私はきっと二つの
時空の接点から、ここへ
入り来たんだろう。

太夫は懐中時計で
徐に時間を確かめる。

「…そろそろかしら。
ハオ、そこに隠れて。」

太夫が小声で格子戸から
姿が見えない場所に
潜む様指示をするので
急いで従う。

昼下がり、そろそろ
お店のお勤めに合わせて
池田屋の店前の通りにも、
男衆やら職人さん達が
準備のために往来する時刻。

日除けの傘を避けながら
歩いてくる洋装の男たちが
視界に入った。

この世界で洋装は目立つ。

…私のジャージは
もっと目立っていますが…

やがて格子戸越し、
眼下にさしかかった男達を見て
私は双眸を見開いた。

思わず声を出さなかった事を
ほめて欲しいくらいだ。

  

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