紅一点
    

太夫が、一人この世界で
噛み締めていたのは、
自分が、彼にとって
どんな存在だったのか…と
いうこと。

「私はあの時痛感したの。
周囲に気取られない関係って
楽だけど、それは
“特別誰でもない、その他大勢(モブ)
と同じなんだって。」

“家族”でも“恋人”でもなければ、
人生を左右する様な局面じゃ、
“友達”なんてポジションは
“第三者”と一緒…
 
「結婚とかそういゆうの
何で世間はこだわるのかって
冷めた目で見てたけど…
有事になって気づいたの。
関係性が明確である重要性に。」

太夫は、キセルを咥えて
空を見遣る。

「ここは、ひと昔…
なんて所ではないほど
あらゆる事が遅れた世界よ。

悦楽だけが異常に発展した
特定の誰かにとっての
いいことだけを
かき集めたような
そんな異常な世界だよ。」

太夫が空に向けて
煙を吐き出して言った。

“ハオ。あんたは、
自分の人生
どう生きていく?”

視線で追いかけた煙は
その辺を漂ったのち
何もなかったかの様に
空に溶けてしまった。


 
 
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