紅一点
 

…そうはいっても、

私は、所詮
似通った異世界から来た、
異分子なのだ。

淳之介の家の空き部屋に
間借りして一夜を過ごした翌朝、
見知らぬオトコに
叩き起こされた。

芳しい香りのする畳の上に
直接寝具をひいて寝ていた
私の肩に衝撃が加わる。

「ほら、起きろよ。居候。」

ッテェなぁ…

「何時まで寝てんだよ。
いい身分だな。いっそう
殺しちまおうかなぁ?」

随分と辛らつな台詞を
吐きながら、頚動脈を
圧迫してくる。
首を踏むな。クズ。殺すぞ。

そう思った瞬間、圧迫から
解き放たれ、布団の上で
身を起こし、声の主に
視線を向けた。

「…誰…?」

…ナニコレ?
ヤバイ職業のヒト?

あ。もしかして
淳之介の恋人?妬いてるの?
だったら弁解しなきゃ。
自分の考えに妙に納得をすると
同時に、頭頂部にスナップの
効いた衝撃が加わった。

「ちげぇーよ。バーカ。」

…何だ、違うのか。
っつーか、よく分かったな。
私の思考が。

「分かるわ!お前の
薄っぺらい思考は
全部口から出てんだよ!
こっちは、お前に聞きたい事が
テンコ盛りにあるんだ。
忙しいんだから、さっさと
着替えて出て来い。

…てか、なんなら、俺が
着替えさせてやろうか?」

そういって
下卑た笑みを浮かべた
オトコの背後の襖が
タンッと音を立てて開く。

「雅也ぁああ!!」

「ひぃぃぃぃ!!!」

目の前のすかしたオトコの
背後から聞こえる
地獄の底から這い上がる
響きに、私が悲鳴を上げた。

「よう。起きたか?淳之介。」

「起きたかじゃないわよ、雅也。
扉、鍵かけてたでしょ。
どうやって入ったのよ。」

先刻の地獄の咆哮と
打って変わって、
おっとりとした淳之介の
声がする。

「ああ。鍵、珍しく
かかってたな。でも、
俺、マスターキー
持ってるからさ。」

目の前の優男は、
スーツのポケットから
針金を取り出して
キョトンとした表情の
淳之介の掌に置いた。


  
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