紅一点
10章 side 淳之介
 

雨戸の隙間から
差し込む白い光線に
手の甲で瞼を覆う。

ああ、朝か。
満たされた気持ちの朝だ。
温かくて、よく眠れた。

まだ眠るハオの額に
口付けを落とす。

“ハオちゃん?どこ?”

ふすまの向こう側で
禿がハオを探す声がする。
初めてのところで
心細いのだろう。

着物をはおり、帯を締めて
そっと自分の部屋を後にした。

「おはよう。よく眠れた?」

「はい。黒田様。
ありがとうございます。」

廊下を歩きながら
そう声をかけると
禿の挨拶が返ってきた。

「朝食を食べたら
一緒に池田屋に戻りましょう。
ハオを起こして頂戴な。
あそこで寝てるわ。
中々起きないから、遠慮なく
雨戸を開けてやって。」

そう促して、禿の足音を
聞きながら台所へ向う。
今日は、昨晩の後始末も
あろうかと、茶屋は臨時休業と
決めていたから仕込みはない。

多分、雅也も重蔵も
ここへくるだろうから、朝食を
多めに作っておこう。
材料を調理台へ並べながら
米を研ぐ。

禿はそろそろ
ハオを起こせたかしら?
あの子、相当寝起きが悪いから。
太夫に聞いたら、そういう
お年頃なのだって言ってたけど。

そんなことを
思い起こしていた時

「きゃああああ!」

禿の悲鳴がして、包丁を置く。
昨日の取り逃しでもあった!?
何が起こったんだろう。
慌てて自室へ向かい、
ふすまに手をかけた瞬間

「キャハハハ!
ハオちゃんやめて!
くすぐったいから!」

「私を叩き起こすなんて
生意気な小娘だこと♪
お仕置きしてやる♪
ふふん♪」

楽しそうな
二人の声が聞こえる。

 
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