君中毒-Another Stories-
俯くゆいの顔を、坂井さんが覗き込む。
目が合わないようにと、必死で瞼を固く閉じた。
「…ゆいちゃん、どした?どっか痛い?」
耳元で喋らないで。
鼓膜から、全身が熱くなる。
どうしよう…
どうしよう。
心臓が痛い。
「かえ、ります…」
「え?」
「ごちそうさまでした!」
来てすぐ脱いだジャケットを荒々しく羽織る。
飛び出した部屋の玄関を勢いよく閉めて。
走りながらローファーを履いた。
苦しい、苦しい。
坂井さんのマンションが見えなくなるまで、走り抜いたゆい。
整わない呼吸を安定させるために、立ち止まる。
震える指。
ポケットから取り出した携帯で、見慣れた番号を探し出した。
『……もしもし?』
聞き慣れた声に、安心する。
「……え、みたん…」
『ゆい?』
「しんぞ、痛…い…」
安心したのと同時に、目から涙が零れた。
「心臓、痛い…っ…」
『何、ゆい?泣いてる?』
「びょーき…だっ!」
『大丈夫?今どこ!?」
―…あのね。
心臓が痛いの。
ゆいは『ミユちゃん』じゃないのに苦しくなるの。
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