ブエノスアイレスに咲く花
「島田くん見て見て、
サボテンがいっぱい」
奈津美が僕の名前を初めて呼んだ。
大股歩きで近づいてみると、
長方形をしたテーブルの上に、
藍色の絨毯のような厚い布が敷かれ、
その上に数種類のサボテンと、
木彫りの器、それから、
店のロゴの入ったライターが並べられていた。
相沢は黙ってタバコを吸いながら、
左手で小さなサボテンを持ち上げると、
一度、元に戻した。
タバコを消すと、携帯灰皿にしまい、
さきほどのサボテンを両手で持ち直した。
僕はいったい、あの携帯灰皿には
何本の吸殻を収める事ができるのか
を考えながら、
興味ではなく、必要なものとして
並べられたライターのひとつを手に取った。