ブエノスアイレスに咲く花
「ライターは無料です。」
店の中から女性が声を掛けてきた。
明らかに異邦人を思わせるその女性は、
長く茶色の髪を後ろでひとつにしばり、
小さな輪郭に似合わない大きな目と、
筋の通った鼻、口紅は薄いピンクだった。
僕は女性にライターがよく見えるよう
短くもって微笑んだ。
すると女性も微笑んで
テーブルの近くまで来た。
歳は僕らの少し上くらいだろうか。
「このサボテンって
全部同じ種類なんですか?」
相沢はひとつを手に持ち上げたまま、
他のものと見比べて尋ねた。
「お兄さんが持っているのは、
レブチア属のサボテンで、
私の故郷が原産国なんです。」
女性は訛りのない日本語でそう答えた。
相沢が「故郷」と呟いたすぐさま、
「じゃあこっちは?」
と丸い、灰皿のような形をした
サボテンを奈津美が指差して尋ねた。