ブエノスアイレスに咲く花

「そっちはマミラリア属の
 サボテンで、ピンクの花が咲きますよ
 メキシコのサボテンです」

「サボテンって、
 花が咲かないんじゃないの?」

相沢は持っていたサボテンを元に戻して、
店の看板を見つめながら言った。

「それは都市伝説みたいなものだよ、
 水をあげなくてもいい、とか、
 花がなかなか咲かないとか、ね」

僕が言うと女性は頷き、テーブルの向こう側に
置かれた丸椅子に腰掛けて続けた。

「サボテン科の植物でも種類がたくさんあるので、
 世話が難しいもの、簡単なもの、
 いろいろありますね。
 
 彼がさっき持っていたものは、
 アルゼンチンが原産なんです。
 私の母はサボテンが好きで、現地でたくさん
 育てています。

 そのなかでもそれは花が咲きにくく、枯れやすい」

相沢はもういちどそのサボテンを手に取った。

「これは運命だな、俺、これ欲しい」
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