ブエノスアイレスに咲く花

「おじゃまします」

僕は小さな声で言い、
サボテンの入った袋を玄関に置いた。

僕が靴を脱いでいる間にサキは玄関まで来て、
完全に部屋にあがると同時に
「5分、10分って」
とだけ言って正面から僕の腰に両手をまわす。


洗いたての髪からは
嗅いだことのあるいい香りがして、
肩下まであるやわらかい髪をなでると、
後頭部は少し湿っていた。

「5分、10分ってうったかな、
 50分ってうったつもりだったんだけど」

僕がそういうとサキは僕から離れて、
眉間にしわをよせると僕のみぞおちに、
やさしく拳を押し付けた。

化粧を落としたその肌は、
僕が見た異性のなかで一番白く滑らかで、
幅の広い瞼から幾何学的に揃って伸びた長いまつげ、
曲線と直線がバランスよく交わった鼻筋、
とにかくサキを形作るものは超自然的に美しかった。
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