強引な彼にすっかり振り回されています
その夜向かった先はVIPラウンジ。
オフィスビルの上層階で営業していて、私には縁遠い場所だ。
「お席へご案内いたします。」
案内された窓際からは、見知った庭園が見えた。
私がこだわってデコレートした照明が庭園をきれいに見せている。
「わぁ!ここからも見えるんですね!」
私はつい興奮して窓ガラスにおでこがつきそうな勢いで庭園を見下ろした。
「うん。見えるんだ。おれが見てたのは違うものだけどね。」
「?」
西王寺さんを見てみると、テーブル越しに優しい眼差し。
「いつも紗也ちゃん遅くまで作業してるだろ?おれはそれを眺めてた。」
「えっ?」
それは初耳だ。
「仕事つかれたなーと思って、家に直行するのが嫌でココに来ると、いつも紗也ちゃんがいるんだ。
おれより頑張ってるコがいるんだって、元気をもらってた。」
「そんなこと……。」
「だからあの日、お客さんに説明したいっていう理由に託けて話しかけたんだ。」
つまり、私は存在すら知らなかったというのに、西王寺さんは私のことを知っていたということになる。
「昨日はあんな形になったけど、いま、あらためて言わせてほしい。」
そう言って、小さな箱をテーブルに置く。
「紗也ちゃん、俺と結婚しよう。」
西王寺さんの目は、私がノーと言わないことを確信している。
「でも私っ、西王寺さんとお見合いできるような家柄じゃないしっ、いつも作業着だしっ……」
自分でも何を言っているのか支離滅裂だ。
「あぁ……、あの見合いは勝手な話だし、ちゃんと断る。だから、いま紗也ちゃんがこの話を受けてくれないと困る。」
「あの……、まだ断っていないのに、私にこんな話を?」
西王寺さんは、わざとらしく目を見開いてみせて、「気づいたか」とばかりの反応を示す。
「いまから紗也ちゃんがイエスと言うだろ?」
言いながらテーブルの上の箱を開く。
テーブルに置かれたキャンドルの灯りに照らされて、リングに施された宝石が煌めく。
「そしておれが紗也ちゃんの指にこれを飾る。」
イスから立ち上がった西王寺さんが、指輪を片手に私の左手を取り、膝をついた。
「い……イエス…っ」
素敵な場所で、素敵な人にこんなことされて、イエス以外の選択肢があろうものか。
私はまたしても西王寺さんのペースに乗せられてしまった。
「幸せにするよ。」
私の左手を満足気に眺めて微笑んだ西王寺さんが、その指にキスをした。