婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
「ベタではありますが、立花さんには料理上手なかわいい奥さんを演じてもらいます。共演の俳優はいません。視聴者を夫と思って、カメラに向かって話しかけるという演出です」

 ホームビデオで撮っているような家庭的な映像を撮りたいということだった。

「男性受けはいいだろうけど、今の時代だと女性からは反感を買わないか?」

 口を挟んだのは松野だ。このあたりの意見は代理店としても当然想定済みだったのだろう。担当者はすぐに返答をする。

「御社のアプリは、主婦層にはすでに浸透しきっていると言えます。うちの社内で聞いた限りでも、既婚女性のほとんどがインストール済みでした。今回のCMのターゲットは、男性と普段あまり料理をしない若い女性、でしたよね?」

 立花モモは若い女性にはアイコン的な人気があり、彼女と自分を重ねられるような演出をする。というのが、彼の答えだった。

「SNS映えするオシャレなキッチンと料理。資料のデータを見てもらえばわかる通り、若い女性にはビジュアル重視の広告が最も訴求力があります」

 男性には立花モモ自身の魅力を、若い女性にはオシャレなライフスタイルを、それぞれアピールするということなのだろう。結婚生活の現実を知る既婚女性にはウケないかも知れないが、万人に好かれようとして印象に残らないよりは、ずっといいだろう。
 松野も納得したのか、「なるほどね」と頷いた。
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