婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
 このまま予定調和的に進むかと思われたその場に、待ったをかけたのは大地の遠慮のないひと言だった。

「え~。なんかつまらなくないっすか」
「春日! お前みたいな素人が広告代理店(プロ)の仕事に簡単にケチをつけるな」

 松野がぎろりと鋭い目で大地を睨んだが、宗介は逆に松野をたしなめた。

「いや、視聴者は素人だ。コンペに出すためのCMじゃない。一般視聴者に向けたCMなんだから、素人の意見も大事だろう。春日くん、話してみて」

 大地は堂々とした口ぶりで話しはじめた。

「俺、こういう世界はそんなに詳しくないから勉強しようと、今流れてるCMは全部チェックしました。綺麗な奥さんって設定のやつ、八本もありましたよ。なかでも一番人気なのは七瀬泉のやつですね。本人を前にすると言いにくいんですが……」

 大地はちらりとモモを見たが、あっさりと言い放った。

「立花さん、七瀬泉と真っ向勝負だと勝ち目なくないですか?」
「ちょっと、君」

 モモのマネージャーが怒って立ち上がりかけたが、それを止めたのはモモだった。

「いいよ。本当のことだもん。続けてください、春日さん」

 松野が呆れた顔で大地を見た。

「じゃ、お前はどうすればいいと思うんだ?」
「う~ん。少しアプローチを変えてみるっていうか」

 腕組みして首をひねる大地を、松野は鼻で笑った。
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