婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
「どこも立派で、甲乙つけがたいな……あっ、でもキッチンはここが一番素敵かも」

 まるでハリウッド映画に出てきそうな豪華なアイランドキッチンは、見栄えだけでなく使い勝手も良さそうだった。が、正直他の物件も似たような雰囲気だったと記憶している。
 紅はただ夜遅くまで付き合ってくれている営業マンに気を遣って、なんとか前向きな感想をひねりだしただけだった。「どこも一緒」じゃ、さすがに彼に申し訳ない。
 
 それなのに、宗介は紅の適当な感想で契約を決めてしまった。

「そっか。じゃあ、ここに決めます」
「えぇ!? そんな簡単に……」

 困惑している紅をよそに、宗介と営業マンはどんどん話を進めていく。高額契約を決めて嬉しそうな営業マンの顔を見てしまうと、紅はもう口を出せなかった。

「ありがとうございます! すぐに契約手続きを済ませますから」
「お願いします。あ、今日から賃貸開始ということにしてもらえますか?」
「もちろん構いませんが、入居日からの契約でも問題ございませんよ」
「いや……今夜もう少しここにいたいから。いいかな?」
「かしこまりました」

 営業マンはあれこれ聞かずに、ふたつ返事でうなずいた。内見したその日から部屋を使うなんて普通はダメなような気もするが、こういった高級物件にはVIP待遇があるのかも知れない。
 営業マンは宗介に鍵を預けて帰っていった。
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