婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
 大きなガラス窓の向こう側には、星屑をちりばめたような夜景が広がっていた。真ん中にそびえたつ東京タワーの存在感はさすがとしか言いようがない。

「夜景を楽しむって点では、スカイツリーより東京タワーのがいいな」
「はい。ここの一番のおすすめポイントはこの夜景ですので、あえてこの時間に見ていただきました。エリア的にもこのあたりは人気が高いですよ。奥様はいかがでしょうか?」

 有能そうな不動産営業マンがにこやかな笑みを浮かべて、紅を振り返る。

「あっ、違うんです。奥様では……」

 紅は彼の勘違いを正そうとしたが、宗介は気にしていないようだった。

「いくつか見たけど、紅はどこが気に入った?」

 昼過ぎから、宗介に付き合って三軒ほど物件を見て回った。どこもホテルのスイートルームとしか思えない豪華さで、紅は圧倒されるばかりだった。
 紅の生まれ育った家も都心の一等地にあり資産価値は高かったのだが、ミステリー小説の舞台になりそうな古い日本家屋で、こういったキラキラ感とは無縁だった。

 いまのマンションを選んだときの条件は「二階以上・バストイレ別・駅から徒歩圏内」といたって庶民的なもので、宗介の新居選びにはなんの参考にもならなそうだ。
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