【完】囚われた水槽館~三人の御曹司からの甘美な誘愛~
小さくため息を吐いて本を閉じる。
すると外にふと人影を感じた。
書斎からは、室内に造られた小さなプールが見える。 春になるとはいえ、まだまだ夜は寒い。
夜のプールの中で人影がゆっくりと蠢くのが見えた。
月明かりに照らされた青白いプールは、とても幻想的で美しい。まるでこの屋敷に幾つもある水槽に似ていた。
スーツのジャケットを脱ぎ捨てて、真っ白のシャツのままそのプールに揺られていたのは、智樹さんだった。
朔夜さんと似た背丈。 水の中をゆっくりと泳ぐ。水から顔を上げた横顔は月の光に照らされて、どこかもの悲しく映った。
そんな訳ないのに、顔に滴り落ちる水の雫が涙に見えて。
「智樹さん…」
書斎を出てプールサイドまで行き声を掛けると、彼は驚いたように顔を上げた。
「まりあ…」
「まだ寒いのに…風邪をひいちゃいますよ?」
そう言って智樹さんへタオルを差し出すと、目線を合わせぬままそれを受け取り「余計なお世話だ」と顔を背けた。
この館へやってきた頃はとても優しかった。 今では冷たくあしらわれるばかりだった。 そんな事を気にしてはいなかったが、理由は知りたかった。
その理由を聞いた所で、彼が私を手放してくれるかは別として。