【完】囚われた水槽館~三人の御曹司からの甘美な誘愛~

それに昨日の智樹さん、様子が変だった…。許さないでくれと言った。そして私を愛している、とも。

私は今まで智樹さんの事がよく分からなかった。 けれどあの瞬間だけ、智樹さんの本質を見た気がする。 孤独で寂しくて、まるで愛を求めている様な姿。その姿がいつかの自分と重なった。

私達は、きっとお揃いの傷を持っている。だからこそこんな懐かしい感情ばかりこみ上げるんだ。 どうして、こんなにも朔夜さんが好きなのに一緒に居たいのに…あの孤独をまとい生きている様な智樹さんを放っておけない気持ちになるなんて。

「うるせぇよ!」

朔夜さんの怒鳴り声が飛んできて、悠人さんは唇を尖らせてソファーに座り直した。

挨拶を終えた智樹さんも、私と並びソファーに座る。 ちらりと智樹さんの方を見つめたら、少しだけ笑った気がしたけれど直ぐにいつもの無表情に戻ってしまった。

目の前に座る中年の弁護士先生が、幾つかの書面を机の上に広げる。 そして信じられない事を口にしたのだ。

「春太さんが生前私へと残した遺言です。」

ごくりと生唾を呑み込む。
祖父には、私は遺産の全てを放棄すると伝えた。理由もきちんと。

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