【完】囚われた水槽館~三人の御曹司からの甘美な誘愛~
追憶。

追憶。




それは遥か昔――。夢や幻のような記憶だ。 現実に起こった出来事かは、定かではない。 
美しい女性の声でアメイジンググレイスが響く。

どうしてここまで透き通っているのだろうか。 書斎の窓を開き、揺れるカーテンの隙間から歌の響く先を見つめた。人の出払った屋敷内で、仕様人の坂本さんが、隠れるように庭先でひとりの女性と話していた。


風に揺れる真っ黒の長い髪。 振り返った女性はとても美しかった。 その声で紡がれる歌は、その容姿に遜色がない程美しい。

そして彼女の後ろ、小さな女の子が下を向いてつまらなそうな顔をしている。 坂本さんと深刻な顔をして話し込んでいる女性。 そこから逃れるように小さな女の子は走り出した。


読んでいた書籍を手に持ったまま、書斎から出て、坂本さんに見つからないように迷路のようになっている庭先を走り抜けた。

クローバーの上にシロツメクサが敷き詰められている館の庭先。
息を切らせて奥に入って行くと、白いワンピースを着ていた少女の後ろ姿を見つめた。


足音を立てぬようにゆっくりと近づこうとしたが、手に持っていた書籍がするりと手の中から落ちてばさりと草木の中音を立てた。

振り返った少女は、怯えた様な目をこちらへ向けた。その両手にはシロツメクサが何本か握られている。

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