耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
愛しさと庇護欲で埋め尽くしたはずの心の中に出来た小さなひび割れ。
その割れ目の間からじわじわと滲み出してくる仄暗い感情。それは怜の意思をまるで無視して広がっていく。

けれど、それをひび割れの中に押し戻し、元の状態にすればいい。
たとえそれが自分にとって苦しいことだとしても———

「俺はあなたを泣かせたくはないんだ」

我ながら情けない、と心の中で溜め息を落とした時、腕の中の美寧が顔を上げた。

「怖くなんてなかった!」

勢いよく言い放った言葉に思わず目を見張る。
怜が息を呑んだ隙に、美寧はどんどん言葉を続ける。

「れいちゃんのこと怖いなんて絶対思わないよ」

「あの時は……ちょっとびっくりしただけ……触られるなんて、思ってなくって……」

「でもね!怖くなんてなかったよ?だって、れいちゃんだもん」

立て続けにそう言った美寧は、怜をじっと見上げ少し躊躇いがちに口を開いた。

「あのね、私だってれいちゃんに触れたい。ぎゅってするのも、してもらうのも大好き。キ、キスも……だから———」

美寧は意を決したようにぐっと唇を横に引き結ぶと、怜の肩に勢い良く両手をつき上半身を伸びがらせた。

「わっ、」

思いがけず美寧に押された形になった怜は、ごろんと後ろに倒れこむ。

手をつけば倒れずに済んだかもしれない。けれど怜は、美寧が膝から転がり落ちないよう組んだ腕をほどかなかった。幸い後ろにあったビーズクッションのおかげで、頭を打たなくて済んだ。

頭がビーズに埋まる感触と同時に、唇にも柔らかなものが触れた。
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