耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
[2]


己の《《失態》》に混迷するあまり、完全に意識が自分の内側に入っていた美寧。
足元を照らす街灯の光に、ハッと我に返った。

「いつの間に………」

公園も商店街も通り抜け、駅前まで来てしまっていた。
その上、さっきまで真っ赤に燃えるようだった空は、西の山の端に少しのオレンジ色を残して藍色のグラデーションで彩られている。

いつのまに時間も場所も飛び越えたのだろうか。

「早く帰らなきゃ……」

日が暮れても帰って来なかったらきっと怜が心配する。
それでなくても、最近は『不審者が出るから気を付けるように』と何度も言われているのに。

冷たい夜風に体が冷えたのか、小さくぶるりと身震いをする。慌てて踵を返そうとしたその背中を、後ろから誰かがポンと叩いた。
振り向いた美寧は目を丸くした。

「神谷さんっ!」

後ろに立っていたのは神谷だった。

「神谷さん……どうして……?」

「マスターのお遣いでスーパーに。帰ろうとしたらちょうど美寧ちゃんが通りかかって、声を掛けたんだけど……」

神谷がスーパーの前で声をかけた時には気付かなかったらしい。

「それよりも今から出かけるところ?」

駅に向かっていたからそう見えたのだろう。

「ちがいます。ちょっと散歩に」と首を振った美寧に、神谷が「もう暗いから危ないよ」と言う。

最近マスターが口癖のように『不審者が出るから美寧も気をつけろ』と言っているのを、彼も聞いていた。

「もう帰るところなので」と美寧が言うと、神谷は「じゃあ一緒に戻ろう」と歩き出した。

今いる駅前から商店街のアーケードをくぐったすぐにスーパーがある。そして【カフェ ラプワール】は商店街の一番奥。そしてそこからすぐの公園を通り抜けたところに、美寧と怜が暮らす藤波家はあった。

< 123 / 427 >

この作品をシェア

pagetop