耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「いつも休みの時は散歩に来るの?」

「いえ、いつもという訳ではないのですが……」

二人で話しながら来た道を戻る。

美寧と神谷のアルバイト時間は、ほぼ入れ違いのようなものだ。
美寧は開店から四時まで。神谷は大学の講義が済んだ後、早くても三時、遅い時は五時過ぎ。そこから閉店まで。

神谷は土曜日には賄いを食べて午後からアルバイトに入るけれど、美寧は彼が勤務に入ってから賄いを取るので、あまりプライベートな話をすることは無かい。

美寧は仕事中に自分から私語をしない。
常連のお客さんに話しかければもちろん会話に参加するし、マスターとやり取りをすることもある。けれど自分からあれこれと話をすることはしない。
お喋りに気を取られてまたうっかり失敗したらいけないと、美寧は仕事に集中することを心がけているのだ。


「今日は何してたの?」
「休み時はいつも何してる?」
「家は近いの?」

ぽんぽんと立て続けに投げられる神谷の質問に、一つ一つ丁寧に答えているうちに、あっという間にラプワールの前まで戻ってきた。

「じゃあ、私はこれで———」

「マスターによろしく伝えてください。お疲れ様です」と会釈をして歩き出そうとしたところ、神谷が「あっ!ちょっと待ってて!」と言い残してラプワールの勝手口に入って行った。

どうしたのだろうと思いつつも、『待ってて』と言われ大人しくその場に足を留める。

(私、何か忘れ物でもしたのかな………)

明日は月曜日。アルバイトでラプワールに行く。美寧は今日中に手元にないと困るようなものは忘れていないと首を捻る。

そうしている間にも空の藍色がどんどん深くなっていく。
あまり遅くなったら本当に怜に心配をかけてしまう。早く帰らないと———

美寧がそわそわと落ち着かない気持ちで待っていると、神谷はすぐに戻ってきた。

「お待たせ!じゃ、行こうか」

「え?」

「家まで送ってくよ」

唐突な神谷の申し出に美寧は目を丸くした。が、すぐに首を横に振る。

「でも、神谷さんは仕事が、」

「大丈夫。マスターには事情を説明してすぐに戻ってきますって言ったから」

「でも、」

「大丈夫。マスターも『その方が良い』って」

送ってもらうことを躊躇する美寧を促すように、神谷は軽く美寧の背中に手を添えてから歩き出した。

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