耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
他愛ない話をしながら遊歩道を進む。公園を抜けるとほどなく、藤波家の屋根が見えてくる。

「もうそこなの。送ってくれてありがとう、颯介くん」

彼だってアルバイトの途中なのだ。早く戻らないともしかしたらマスターが困っているかもしれない。
そう思った美寧は、門よりも少し手前で颯介にお礼を言った。

颯介が足を止める。
てっきり「じゃあまたね」と踵を返すだろうと思っていのに、そのままで一向に動かない。不思議に思った美寧は、颯介を振り返った。

「颯介くん?」
「あのさっ、」

何か言いたいことがあるような颯介の言葉に、美寧は「どうしたの?」と首を少し傾げる。

颯介の白い頬がうっすらと赤く染まるが、等間隔に並んだ街灯のちょうど間で薄暗く、美寧はそれに気付かない。颯介の言葉の続きを大人しく待っている。

颯介は視線を少しさ迷わせながら口を何度か開けたり閉じたりした後、美寧をもう一度見た。

「あのさ、美寧ちゃんは………」

うん、とだけ言って続きを待つ。

「……美寧ちゃんは、あの、………先生が好きなの?」

「えっ?」

「藤波先生のことが好きなのかな、と思って……」

思いも寄らない颯介の指摘に、美寧の顔がみるみる赤くなっていく。

颯介がアルバイトに入っている時に、怜が来たのは数回ほど。滞在時間は三十分ほどで、いつも一人静かにコーヒーを飲んでいる。
その間、美寧は美寧で、接客やマスターの手伝いに励んでいるのだ。

自分が怜と話しているのをあまり見たことがないはずなのに、颯介はどうして分かったのだろう。

颯介の指摘に驚きつつも、美寧は頬を染めたまま小さく頷いた。

「そ、そっかぁ……やっぱり……」

あからさまにがっかりとした颯介の態度に、美寧はまったく気付かない。怜への恋心を指摘された動揺を収めるのに必死なせいだ。

「あの……誰かを好きになるのは初めてで、分からないことばっかりなのだけど……でも、」

「そうなんだ。初恋なのかぁ……」

美寧の言葉に続きがあることに気付かず、颯介は「そうかぁ……」と呟く。
そんな彼に美寧も自分の疑問をぶつけてみた。

「でも、どうして………?どうして分かったの?」

「う~ん、そうだな………藤波先生が来ると、いつも美寧ちゃんすごく張り切るだろ?」

「っ、」

「しかもよく先生の方を見て、話しかけたそうにしてるし……」

図星だ。

怜が来ると、なぜかつい張り切ってしまうのは、自分がちゃんと(・・・・)やっているところを見せたくなってしまうせいだ。

話しかけたいのもその通りで、仕事中だから無駄話は良くないと思うのに、家に居る時みたいについつい話しかけたくなってしまう。それを何とか我慢しよう仕事に集中しようとするあまり、いつも以上に仕事熱心になってしまうのも、張り切っているように見える一因だ。

颯介の指摘に、美寧は「ううっ」と唸って俯いた。
< 126 / 427 >

この作品をシェア

pagetop