耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
振り返ると、怜が門の前からこちらに向かって歩いてくる。

大好きな人が目に映っただけで、美寧の瞳がパッと明るくなる。
けれど同時に、忘れかけていたさっきの“羞恥心”が一気に戻ってきて頬が赤く染まる。

「れ、———」
「こんにちは、藤波先生」

颯介の声が美寧の声をかき消した。

「あ、もう『こんばんは』ですね」

「こんばんは、神谷君。……二人ともこんなところでどうしたのですか?」

怜が美寧をチラリと見る。美寧は反射的に目を逸らしてしまう。

「ああ、……たまたま駅前で美寧ちゃんと会って、彼女を家まで送って行く途中なんです」

「そうですか……でもこんなところに立ち止まって、何かありましたか?」

「いや、……えっと、彼女にちょっと訊きたいことがあって………」

「そうですか。ですが、もうずいぶん気温が下がってきています。こんな真っ暗で寒い中、女性を引き留めるのはいかがなものかと思いますが?」

「あ、えっと………はい」

「それはそうと、君はアルバイトの途中じゃないのですか、神谷君」

「は、はい。でも、彼女を送って行くことはマスターの了承もちゃんと取っていますから」

真っ直ぐに怜を見つめながら颯介が言ったその言葉に、怜は小さく頷いた。
ラプワールのマスターならきっと美寧を送って行けと言うだろう。

「そうですか。それはご苦労様でした。マスターにも『ありがとうございます』とお伝えください」

「えっ?」

何故怜からお礼を言われるのか分からない颯介が、目を白黒させる。
そんな颯介を横目に、怜は美寧の肩を抱き寄せ家の方へ体を反転させる。

すぐ後ろから息を呑む声がはっきりと聞こえてきた。

門に向かって数歩歩いたところで、怜が顔だけ颯介の方へ振り返る。

「君も気を付けるように」

どことなく冷え冷えとした声に、美寧は思わず隣を振り仰ぐ。
月に照らされた彼の横顔が、怖いくらい綺麗だ。

怜に肩を抱かれた美寧が、門の中へ入ろうとしたその時———

「美寧ちゃん!」

呼び止められた美寧が振り返る。と同時に颯介が声を張った。

「さっきの!本気だから!」

颯介は何を『本気だ』と言っているのだろうか。よく分からない。

「今夜は冷えます。早く中に入りましょう」

怜に促された美寧は、颯介に軽く会釈をしてから門の中に入った。

颯介に背を向けていた美寧には、颯介が自分たちをじっと見つめる視線には気付かなかった。


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