耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
[3]


ガラガラガラ———

少し重たい引き戸が立てる音。
いつしか耳に馴染んでしまったその音を背中で聞きながら、靴を脱ごうと三和土(たたき)を一歩進んだところで突然後ろから抱きすくめられた。

「れっ」

驚いて声を上げると、抱きしめる力が強くなった。背中からの熱に鼓動が加速する。

「あのっ、」

「やっぱり———」

低い声でそう呟いた怜は、はぁっと溜め息をついてからそっと美寧の両腕をさすった。

「やっぱり冷えています」

怜の手のひらから伝わる温もりに、美寧は自分の体が冷たくなっていることに気が付く。

「上着を忘れて行ったでしょう」

「う、うん………」

「それなのに暗くなっても戻ってこないから心配しました」

「ご、ごめんなさい……」

やっぱり怜に心配をかけてしまったのだ、と項垂(うなだ)れる。

「迎えに出てみれば、なぜか彼と一緒にいるし………」

「彼……?颯介くんのこと?」

怜の体がピクリと小さく動く。
経緯(いきさつ)を説明するのに一生懸命な美寧はそれに気付かない。

「駅の前で声を掛けられて、『暗いから送っていくよ』って。マスターにも許可まで貰ってくれたんだ。いい人だよね、颯介く、———んっ」

最後まで言い切る直前、首の付け根に湿った熱を感じた。
反射的に身をよじろうとした瞬間、チリっと焼くような痛みを感じる。

「いたっ、……れいちゃ、……あ、やっ、」

熱と痛みに身をよじるけれど、後ろから巻き付いた腕がそれを許さない。
吸い付かれたところから熱が広がって、じんじんと痺れたように熱くなった体から力が抜けていく。

怜の唇は少しずつ場所を変えながら美寧の首を執拗に吸い、時々何かを確かめるように舌先で首筋をなぞられる。その度に美寧の口から細く短い声が漏れた。

自分のものだと思えないような湿った声に、美寧は自分の口を押さえたくなる。けれど、きつく巻きつけられた怜の腕の下になっていて、少しも動かすことが出来ない。

声を漏らさないよう、ぎゅっときつく唇を引き結ぶ。
けれど首筋の一番上、耳のすぐ下を吸われた時、耐え切れず声が漏れた。
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