耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「やぁっ、」

カクンと膝から力が抜け、その場に崩れ落ちそうになるのを長い腕に支えられた。

はぁはぁと肩で息をする美寧の後ろで、怜が小さく溜め息をつく。体の前で交差している腕はさっきよりもゆるんでいるものの、しっかりと美寧の体を支えていた。

荒く乱れた息を整えながら、美寧は以前同じように首に噛みつかれた(・・・・・・)時のことを思い出していた。

あれは確か、怜の大学の部屋で———

『お守りです』

美寧の頭に怜が言った言葉が思い浮かんだ。その時———

「すみません………」

後ろからそう聞こえてきた。

「妬きました」

「えっ?やき………?」

美寧は首を捻る。怜が何を言ったのか分からない。
美寧は少し考えてから「あっ!」と言って振り向いた。

「もうお魚焼いちゃったんだね!ごめんね、私が帰って来るのが遅かったから!」

自分のせいで夕飯の準備が滞ってしまった———と、美寧は慌てて怜の体から自分の体を離した。

「ごめんね、急いで準備するから」と見上げた先にあったのは、“鳩が豆鉄砲を食らったような”顔で———

「れいちゃん?」

再び首を捻った美寧に、怜が「ふはっ」と吹き出した。
初めて見る怜の吹き出し笑いに、美寧が目を丸くする。
怜は美寧から顔を隠すように横を向くと、「くくくっ」と笑った。

「れいちゃん……?」

横を向いて可笑しそうに笑い続ける怜を不思議そうに見上げる美寧。怜はひとしきり笑った後、はぁっと一回大きく息をついてから口を開いた。

「夕飯は『芋煮』です。焼き魚ではありません」

「そう、…なの?」

じゃあ一体何を焼いたのだろうか。
ああ、もしかして焼きナスなのかな、と思った時———

「ナスも焼いていません」

「えっ?」

(私今、声に出したっけ?)

気付かないうちに声に出していたのかと、目を瞬かせる美寧を見て、怜がまたくくっと笑いをかみ殺す。

「焼いたのは『ヤキモチ』です」

「ヤキモチ………」

その単語に、以前彼とした遣り取りを思い出す。
その時は確か“美寧が”ヤキモチを焼いた話だった。

「えっと……焼いたの?れいちゃん()?」

「はい。俺()妬きました」

「えっと……何に?」

確か前に自分が『妬いた』のは、『怜が他の女性に料理を作った』ことだった。
一体彼は『何に』妬いたというのだろうか。
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