耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
(あれ、今日はもう閉店にするって、さっき………)

ソファー席のご婦人たちが帰って行った後、『今日はもう閉店にする』とマスターに言われて美寧がドアに【準備中—Closed—】の札を掛けた。

それを思い出しながらドアの方を見た美寧の目に、焦げ茶色のふわふわとしたものが目に入った。

「あっ!」

ついさっき思い描いた騎士(ナイト)が、開いたドアから入ってきたのだ。

「アンジュ、修ちゃん」

杏奈の声に視線を上に上げると、アンジュのすぐ後ろからあの時の男性が入ってくる。

「あっ!」

美寧が声を上げると、その男性が美寧を見た。

「あっ、あの時の!」

ついさっき聞いた言葉をもう一度聞く。
驚いている彼の後ろから「修平(しゅうへい)君、どうしたの?」という声がする。
この声は、と美寧が思った時、一歩中に進んだ修平の後ろから着物姿の女性が入ってきた。

上品な藤鼠(ふじねず)の着物。肩から裾にかけて描かれた浅黄(うすき)の流れるような模様と色とりどりの花々。
黒髪をシニヨンにまとめたその人は、華やかかつ上品な着物に負けないくらい、貫禄のある美を放っていた。


「わわわ~っ!すっごく素敵です、奥さん!!」

目を輝かせて美寧がそう言った途端、怜を除くその場の全員が一斉に美寧を見た。

「え、……私、今何か変なことを言いましたか?」

目を見張った四人に食い入るように見つめられたじろぐ美寧。すると隣から怜が静かに言った。

「奥さん……だったのですね、気付きませんでした」
< 141 / 427 >

この作品をシェア

pagetop