耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「えっ!?……本当?れいちゃん」

「はい。いつもと雰囲気がまったく違っていらっしゃるので……もっとも、俺が奥さんとお会いしたのは数えるほどしかありませんが……」

怜がそう言うと、マスターが「いや、そうとは限らない」と前置きをしてから言った。

「奥さんはこのモードになると、顔見知りにも気付かれないことの方が多い」

杏奈の隣で修平が頷いている。どうやら彼も変身後の奥さんに気付かなかった経験があるらしい。

「確かに。雰囲気が全然違いますよね……」

怜が頷く。

奥さんのトレードマークはべっ甲ぶち眼鏡とゆるく波打つ長い黒髪。
お化粧も普段はファンデーションとアイブロー程度。
【ラプワール】からほど近い場所にあるという自宅から来るため、着ている服も大抵楽そうなものが多い。

確かに、眼鏡をコンタクトに変え、髪を結い上げ、しっかりとお化粧をしている彼女は、いつもとは完全に別人だった。


「奥さん、今日はこれからどこかへお出かけなんですか?」

キラキラと瞳を輝かせながらそう訊いた美寧に、奥さんは「ふふっ」と笑ってから頷いた。

「ええ、そうなの。今日はちょっと仕事関係の会に参加しないといけなくて」

「そうなんですね!すごく素敵なお着物です!加賀友禅、かなぁ……」

「あら、ありがとう。よく分かるわね、美寧ちゃん」

「えへへ、ちょっとだけですけど」

奥さんに褒められたことが嬉しくて、はにかんだ美寧。その隣で怜が首を傾げている。

「でもどこかでお見かけしたような………」

考え込む怜。彼の疑問はほどなく解決する。

「お仕事で何かおめでたいことがあったんですね」

美寧がそう訊いたのは、奥さんが身に着けている着物が訪問着だからだ。
華やかな訪問着は、格式を持ちつつもお祝いの場に花を添えることが出来る為、お祝いなどの社交の場にピッタリなのだ。

「そうなの。でもおめでたいのは私じゃなくて、他の(かた)なの。新人賞を受賞した若手作家さんをお祝いする会なのよ」

「作家さん!」

「そう。私は一言『おめでとう』と言いに行く立場なのだけどね。一応“表”に出る時はいつもこの格好だって決めてるから」

「お仕事の時はいつもお着物なんですか?」

「う~ん、本業は家でいつもの格好でしているんだけどねぇ。今日みたいにたまに御呼ばれすることがあるのよ。着物はその時用」
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