耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
[3]


「ごめんなさい、私のせいで遠回りさせちゃって……」

街灯の明かりに照らされた住宅地の歩道を歩きながら、杏奈が申し訳なさそうに言った。片手にはアンジュのリードを握っている。

「いいえ、そんなに遠回りじゃないんです。それに私、アンジュちゃんとお散歩してみたかったんです」

「ありがとう。……でもヒロ君ったら、いくつになっても過保護なんだから……」

ブツブツと口の中で不満を唱える杏奈に、美寧は少し分かるかも、と思う。
マスターは普段から美寧にも過保護だと思っていたが、やっぱり娘には更に過保護だったらしい。

あの後、みんなでコーヒーを飲みながら少し話をしたところで、奥さんが出る時間になった。杏奈の夫である修平が、奥さんを会場まで送ってそのまま自分は明日からの海外出張に備えて空港そばのホテルに泊まるらしい。
美寧と怜に挨拶をしたあと、マスターに向かって『留守の間、杏奈をよろしくお願いします』と頭を下げ、奥さんとラプワールを出て言った。
出る直前にさりげなく『行ってくるね』と杏奈に口づけを落として。

二人を見送った後、すっかり真っ暗になった窓の外を見たマスターが怜に向かって言ったのだ。

『すまんが、一つ頼まれてくれないか?』———と。


美寧と怜はマスターに頼まれ、杏奈をマスターの家まで送り届けるところなのだ。

ざっと家までの道のりを聞いたところ、マスターの家はラプワールから徒歩十分足らず。しかも藤波家からもそんなに離れていない。
二人は快く杏奈の見送りを承った。

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