耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
並んで歩く美寧と杏奈。杏奈の隣では茶色い尻尾がゆさゆさと揺れる。

日が暮れるとぐっと冷え込んで来る。美寧は、ラプワールの制服である黒いワンピースの上に羽織った、ロングカーデガンの前をきちんと留めた。


「もう体調は良いのですか?」

二人のすぐ後ろを歩く怜が言った。

「はい。あの時はつわりが少し残っていたのですが、今はもう大丈夫です。つわりがなくなったら今度は食欲が止まらなくて……」

体重増加に気を付けるようにと、産婦人科で指導されたという。

杏奈の話を聞きながら美寧は、十月十日の間お腹の中で命を育む妊娠とは、本当に大変な仕事なのだと思う。

すると杏奈が突然「あっ、そういえば」と言った。

「前に頂いたレアチーズムース、とても美味しかったです。ありがとうございました。持って来てくれた父から、お二人が作られたということを伺って、ずっとお会いしてお礼を言いたかったんです」

「それは良かったです。作ろうと言ったのはミネなので。俺は少し手伝っただけですし」

「そうだったんですね。ありがとう、美寧さん」

「いいえ、こちらこそ……マスターに頂いたパンナコッタ。中に入っているあんずのシロップ漬け、すごく美味しかったです!ね、れいちゃん」

「はい。ご自宅で取れたもので漬けられたと伺いました」

「そうなんです。うちの庭でなったものを毎年シロップ漬けにしていて」

「いいですね、あんずシロップ」

そう言った怜の隣で美寧も頷く。あんずシロップを炭酸水で割ったらさぞ美味しいだろう。

「まだたくさんありますから、今度お裾分けしますね」

杏奈の言葉に美寧は目を輝かせた。

「良いんですか!?」

「はい。あの時のお礼には程遠いですが、喜んで頂けるなら是非」

「ありがとうございます!」

「ありがとうございます」

代わる代わるお礼を言う美寧と怜に、杏奈は微笑んだ。

「それにしても、つわりが落ち着かれて本当に良かったですね。こちらへは出張を兼ねて帰って来られていると伺いましたので」

「はい、そうなんです。明日から三日間、大学図書館での研修に出ることになっています」

「大学図書館での研修、ですか?」

「はい。最新システム導入の研修があるんです。ちょうどその場所が私の卒業校で。勤めている図書館の上司が、研修出張と休暇を抱き合わせてくれて。それで、夫が海外出張と重なっている一週間、こっちに帰って来ることにしたんです」

「なるほど。そうだったんですね」

杏奈の図書館が導入する新システムの話をひとしきり聞いた後、美寧が感慨深そうに言った。

「それにしてもびっくりしたなぁ……奥さんのお仕事が小説家で、しかもそんなすごい作家さんだったなんて……」
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