耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
美寧に頷いてみせた杏奈は、「まあ、ヒロ君があの店をダメにしちゃう心配はしてないんだけどね」と、すこしおどけた顔を見せる。
「だってあの店はヒロ君のお母さんへの愛が詰まってるんだもの」
「そうなんですか?」
「そうそう!作家の恋人がいつでも息抜きが出来るようにって、家の近くに店を作って名前も【ラプワール】にして……」
「お店の名前?」
小首を傾げた美寧の横で、怜が「ああ、確かに」と何か分かったように呟く。
「れいちゃん、どういうこと?」
「ラプワールは『la poire』、フランス語で『梨』のことです」
「あっ、なるほど!」
「そうなの。お母さんの名前が由香“梨” だから」
「素敵!」
「そう、かなぁ……もうあの店がプロポーズのプレゼントだった話なんて、小さい頃から何回も聞かされてね……」
「そうだったんですね」
「もう……今でも、結婚記念日には毎年毎年聞かされるのよ?いいかげん聞き飽きちゃってるのよね」
肩を竦めて眉を上げ、敢えておどけた顔をする杏奈に、美寧はつい「ふふ、楽しそう」と笑う。
親子三人の楽しそうな遣り取りが想像に難くないのは、ついさっきの気の置けない会話を目の当たりにたからだろう。
「いいですね、家族仲良しなのって……」
一抹の寂しさと憧憬が混じった複雑な心境になりつつも、美寧は素直な言葉を口にした。
『羨ましい』とまでは口には出来ない。
そんな美寧の微妙な心情を読んだのかどうかは分からないけれど、杏奈は小さな溜め息をついてから言った。
「あ~ぁ、自分の“初恋の相手”がヒロ君だなんて、ほんと、子どもの時の自分を叱りたくなっちゃうわ」
「えっ、初恋!?」
「そうなの。ヒロ君がお母さんと結婚する前だから、私が小学校一二年くらいなんだけど。いつも遊んでくれる優しいお兄さんを好きになっちゃって、その人が自分の母親と結婚するって、なんだか漫画みたいな話でしょ!?」
「………」
美寧は漫画をほとんど読まないので、どう言葉を返していいか分からない。
黙ってしまった美寧に、杏奈が笑いながら言った。
「ベタな恋愛漫画の王道みたいな話で、今となっては恥ずかしい思い出なの。『初恋は実らない』って言うしね?」
「初恋は……実らない………」
口の中だけで小さく呟いた美寧。
「両親がずっと仲良しなのは嬉しいけどね」
杏奈がそう言って、「でも両親の惚気話にお腹いっぱい」と溜め息をついた頃、【宮野】の表札が掛かる家に着いた。
「だってあの店はヒロ君のお母さんへの愛が詰まってるんだもの」
「そうなんですか?」
「そうそう!作家の恋人がいつでも息抜きが出来るようにって、家の近くに店を作って名前も【ラプワール】にして……」
「お店の名前?」
小首を傾げた美寧の横で、怜が「ああ、確かに」と何か分かったように呟く。
「れいちゃん、どういうこと?」
「ラプワールは『la poire』、フランス語で『梨』のことです」
「あっ、なるほど!」
「そうなの。お母さんの名前が由香“梨” だから」
「素敵!」
「そう、かなぁ……もうあの店がプロポーズのプレゼントだった話なんて、小さい頃から何回も聞かされてね……」
「そうだったんですね」
「もう……今でも、結婚記念日には毎年毎年聞かされるのよ?いいかげん聞き飽きちゃってるのよね」
肩を竦めて眉を上げ、敢えておどけた顔をする杏奈に、美寧はつい「ふふ、楽しそう」と笑う。
親子三人の楽しそうな遣り取りが想像に難くないのは、ついさっきの気の置けない会話を目の当たりにたからだろう。
「いいですね、家族仲良しなのって……」
一抹の寂しさと憧憬が混じった複雑な心境になりつつも、美寧は素直な言葉を口にした。
『羨ましい』とまでは口には出来ない。
そんな美寧の微妙な心情を読んだのかどうかは分からないけれど、杏奈は小さな溜め息をついてから言った。
「あ~ぁ、自分の“初恋の相手”がヒロ君だなんて、ほんと、子どもの時の自分を叱りたくなっちゃうわ」
「えっ、初恋!?」
「そうなの。ヒロ君がお母さんと結婚する前だから、私が小学校一二年くらいなんだけど。いつも遊んでくれる優しいお兄さんを好きになっちゃって、その人が自分の母親と結婚するって、なんだか漫画みたいな話でしょ!?」
「………」
美寧は漫画をほとんど読まないので、どう言葉を返していいか分からない。
黙ってしまった美寧に、杏奈が笑いながら言った。
「ベタな恋愛漫画の王道みたいな話で、今となっては恥ずかしい思い出なの。『初恋は実らない』って言うしね?」
「初恋は……実らない………」
口の中だけで小さく呟いた美寧。
「両親がずっと仲良しなのは嬉しいけどね」
杏奈がそう言って、「でも両親の惚気話にお腹いっぱい」と溜め息をついた頃、【宮野】の表札が掛かる家に着いた。