耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
[2]


怜が大学の准教授室に着き、コートと上衣をハンガーにかけたところで、ドアがノックされた。「はい」と返事をすると、ドアが開き一人の青年が顔を出す。

「おはようございます、藤波准教授」

「おはようございます、竹下君。ずいぶん早いですね」

一限目の講義が始まるのは九時。今はまだ八時前なので、受講する講義のない博士課程(ドクター)の彼には十分すぎるほどに早い時間だ。

その竹下が、准教授室のドアを閉めながら言う。

「………なんだか、居ても立ってもいられなくて……俺なんかが早く来たところでどうにもならないのでしょうけど……」

「そんなことありません。俺が研究室を空けてしまう時間が多いので、君にいて貰えると助かりますよ」

「……なら良かったです」

小さく溜め息を着いた竹下に、「早速ですが、今のうちに昨日までのデータの確認作業をしたいので、手伝ってもらえますか?」と、ジレの上から白衣を羽織りつつ訊くと、竹下は「はい」と神妙な面持ちで頷く。
二人は准教授室を後にした。


***


それは三日前。週の初めの月曜日の昼のことだった。

午前中の講義を終え准教授室に戻ってきた怜のところに、血相を抱えた竹下が駆け込んできた。その顔は真っ青だ。

『どうかしたのですか?』

怜が尋ねると、竹下は『け、け、研究室に今、…れ、連絡が………』とつっかえながら言った後、ゴクンと生唾を飲み込んでから、半ば叫ぶように言った。

『研究費がっ、月松(つきまつ)酒造からの研究費が……年内で打ち切られるって!』

竹下の言葉に、怜は切れ長の瞳をめいっぱい見開いた。


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