耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
藤波研究室は正式な名を【酵母バイオテクノロジー研究室】といい、『酵母ゲノムのストレス適応機構の解明』を研究している。

『ゲノム』とは、その生物が持つ全遺伝子のセットのこと。いわば、その生物をその生物たらしめる、プログラムの全体。

そのプログラムを解析することは、その生物を分子レベルで詳細に理解することにつながる。
それは現在、医療界や産業界で新たな役割を担う分野として期待が集まっているのだ。

怜の研究室では、酵母が発酵生産時に高温や酸などのストレスを受けた時の耐性機能を解析し、酵母の持つ潜在能力をどうしたら最大限に引き出せるのか、日々実験を重ねていた。


膨大な時間をかける研究には、膨大な費用がかかる。
大学からの研究費もないわけではないが、近年国からの運営費交付金の削減もあり、大学を取り巻く環境は年々厳しくなっている。
その為、大学の研究室にとって研究費用を確保するのは重要な課題となっているのだ。


そんな中、藤波研究室では研究にかかる費用を、委託を受けた企業からの経費でまかなっていた。

受託先は【月松酒造株式会社】。酒造メーカーだ。

清酒醸造には欠かせない酵母菌株のゲノム解析を藤波研究室で請け負い、月松酒造が経費を負担する。

定期的に報告する研究成果はいたって順調。問題なく受託研究が続いていくはずだった。


(研究が滞っているならともかく……)

あと少しであちらが望む結果を出せそうな時に、どうして———

怜は羽織っている白衣もそのままに、頭に浮かんだ疑問を確かめるべく、ある場所へと向かった。


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