耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
***


「———というわけなんです。………恋人同士って普通はそういうものなんでしょうか……?」

美寧は、怜とする“恋人練習”のことをひとしきり話し終えた。
左側に座る人からの返事はない。顔を片手で覆って俯いている。

「杏ちゃん……?」

美寧が上半身を少し傾けて顔を覗き込もうとすると、杏奈は顔に当てた手とは反対側の手を上げ、「ちょっとだけ待って……」と小さく言った。その顔は耳まで真っ赤に染まっている。
そして、何度か深呼吸をしたあと、手のひらから顔を上げた。

「うん、ごめんね。お待たせ」

真剣な表情で自分を見つめる美寧を、杏奈は神妙な顔で見つめ返す。
そして意を決したように言った。

「美寧ちゃんは、どうやったら赤ちゃんが出来るか知ってる?」

「え、」

「学校の保健の授業で習わなかった?」

「……習いました」

美寧の通っていた中高一貫の女子高はいわゆる“ミッション系お嬢様学校”で、異性間交友に厳しかった。と同時に、“性教育”が授業としてきちんと行われていた。

けれどそれは淑女教育の一環であった為、『結婚してから子どもを授かって産み育てる』という前提だった。教師も周りの学友たちも誰もその行為が『未婚の男女間でも行われる』ということに触れない。

もちろん“イマドキ女子”の同級生たちはそんなことは教わらなくても知っていて、厳しい教師たちの目をかいくぐり、普通に(・・・)青春を謳歌していた。

けれど美寧は送迎付きで通学し、帰宅した後は祖父とのんびりと過ごしていた為、同級生との放課後の付き合いも無く、男女関係のアレコレを耳に入れる機会はほぼ皆無だったのだ。


頬をうっすら赤く染めた杏奈は、一度軽く咳ばらいをすると続けた。

「その行為は、しばしば未婚の男女の間でも行われることもあります」

「えっ!」

「もちろん、赤ちゃんが出来ないように“避妊”する方法を取ることが一般的です。美寧ちゃんはその方法については知っていますか?」

いつの間にか杏奈が教師のような口調になっているのには気付かず、美寧は神妙な顔つきで頷く。
すっかり“先生”と“生徒”のような気持ちにお互いなっている。
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