耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
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「ヒロ君、お誕生日おめでとう!」
「ヒロさん、おめでとうございます」

(あん)もシュウもありがとな」

娘とその夫から大きな包みを渡されたマスターは、目元口元をゆるめながら言った。喜びを集めたような目尻の皺が、彼をいつもより何倍も優しげに見せている。

「ヒロ、おめでとう」

「由香梨(ゆかり)さんも、ありがとう」

手渡された花束を受け取りながら、マスターは当然のように妻の唇に感謝のキスを贈る。その光景に美寧は思わず目を丸くした。
奥さんがお客さんとしてラプワールにやってきた時には、マスターが彼女にキスをしたことはない。

目を丸くしたまま頬を染めている美寧に、杏奈が顔を寄せ小さな声で言った。

「家ではいつもこんななのよ?ほんと、仲が良いのは良いんだけど、それを目の当たりにする年頃の娘の気持ちも考えて欲しいよね?」

「おい。聞こえてるぞ、杏」

花束を抱えたマスターが娘をじろりと睨む。杏奈はペロリと舌を出して、「ほんとのことでしょ?」と笑う。

「俺たちも由香梨さんと隆弘さんを見習わないとな」

そう言って修平が杏奈の頬にキスをする。

「も、もうっ、修ちゃん!」
「おい!父親(おれ)の前でいちゃつくな」

父と娘の抗議に「ははっ」と笑った修平。彼の足元では、伏せているアンジュが嬉しそうに尻尾を左右に振っていた。


土曜日の午後一時。
ラプワールでのマスターの“不惑”を祝う会は、宮野一家に美寧を交え、こうして和やかに始まった。

窓際にある二つのテーブルを中央に揃えて並べ、その上に多くの飲み物や食べ物が並んでいる。
真ん中に乗った特大のケーキは、朝から杏奈と奥さんが朝から焼いたもので、チョコレートで出来たプレートには【40歳おめでとう】と書かれていた。主役によって今しがた消されたばかりの四本の長いローソクからは、まだ白煙が(くゆ)っていた。


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