耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
[3]


「心臓に悪い」

ポツリと聞こえた言葉。
頬を付けた胸から聞こえてくる心臓の音が、いつもより早い。彼の心臓に負担をかけるようなことをしてしまったのだと、美寧は焦った。

「ご、ごめんな、さい………」

そう言って謝った美寧の息も上がっている。

講義室の前から美寧の手を引いて足早に廊下を進んだ怜は、なぜかエレベーターではなく階段で五階まで上がってきた。
美寧の息がまだ整わないのは、普段はあまり上らない階段を速いペースで上って来たせいだ。

無言で突き進んだ怜が開けたドアの横には、【藤波准教授室】と書かれたプレートが貼ってあったけれど、それを確認する余裕は美寧にはなかった。素早くドアの中へ引き込まれ、バタンとドアが閉まる音が聞こえた時には、もう怜の腕の中だった。


頭の上から「ふぅ~~」と長い息をつくのが聞こえる。

「えっと……、突然来てごめんなさい……」

「正直驚きました」

「うっ、ご、ごめん、なさい……」

「何かあったのですか? 」

「ううん。困ったこととか悪いことがあったわけじゃないの……あのね、」

美寧はここに来るまでの経緯を怜に説明した。



「なるほど。それで、そのデザートを俺と食べようと思って、持って来てくれたんですか?」

「うん………」

「お弁当も、ですか?」

「うん……お昼前だったから。ちょうどいいと思ったんだけど……迷惑だったよね、ごめんなさい」

しょんぼりとした声で美寧が言うと、背中に回る怜の腕がきゅっと締まった。

「そんなことはありません」

「そう……なの?」

「はい」

「じゃあ、なんで……」

「なんで?」

「……さっきのれいちゃん、なんかちょっと怒ってた気がしたの」

「………ああ」

怜はそう言うと沈黙した。美寧はそれを肯定と受け取った。

「れいちゃんはお仕事なのに、勝手に遊びに来たから……」

「怒ったわけじゃありません」

「え?……じゃあなんで……」

驚いて顔を上げた。
目が合うかと思ったのに、怜はこちらを見ていなかった。

「……れいちゃん?」

怜はああ言ったけど、やっぱり怒っているのかも。そう思って美寧が眉を下げた時、怜が美寧を見た。

「そろそろお弁当を食べましょうか」

柔らかく細められた瞳に、美寧は黙って頷いた。


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